優れたデザインおける Craft
AI の力を借りてデザインやプロダクト開発ができるようになった今、よく耳にするようになったのが Craft (クラフト)の重要性です。
ここでいう Craft は、本来の「技芸」や「工芸」といった意味から少し広がり、人の手で丁寧に磨き上げられたことが伝わる、細やかな作り込みや気配りを指しています。
プロダクトを使ったときに人がどう感じるかを語る場面では、細部までよく作り込まれ、使う人にポジティブな感情をもたらすソフトウェアを「Craft が強い」と表現することがあります。反対に、どこか機械的で、ネガティブあるいは無感情な体験になってしまうものは、「Craft が弱い」と評されることもあります。
Figma のカンファレンス Config で、Ethan Eismann(元 Slack の SVP of Design)が行った講演は、まさに craft をテーマにしたものでした。2024 年の講演ですが、AI が当たり前になった 2026 年の今だからこそ、より強く心に響く内容になっています。
ソフトウェアデザインの3つの要素
Ethan は、優れたソフトウェアデザインは Utility、Usability、そして Craft の三つの要素で成り立っていると説いています。Utility は、プロダクトがユーザーの目的をきちんと果たせること。Usability は、その目的をストレスなく使いやすく達成できることです。
そして、これらに Craft が加わって初めて、使う人の心を動かす体験になります。三つがそろってこそ「優れたデザイン」と呼べるものであり、どれか一つでも欠けると、体験はどこか物足りないものになってしまうと論じています。
Craft の5つの次元
Ethan は Craft をさらに五つの要素に分けて考えています。
一つ目は ビジュアルデザイン。色彩理論、タイポグラフィ、スペーシング、情報の階層といった、画面を構成する二次元デザインの要素です。
二つ目は アニメーション。ソフトウェア上のオブジェクトがどのように動くかです。突然 A 地点から B 地点へ切り替わるのか、それとも滑らかに遷移するのか。ゆっくり閉まるキャビネットの扉が心地よく感じられるように、現実世界の優れた体験をソフトウェアに取り込むことが理想だとしています。
三つ目は ボイス&トーン。プロダクトが発する文章や言葉の個性です。Slack のリリースノートはユーモアがあり、「Slack らしさ」を感じられる例としてよく紹介されます。AI が生成するテキストが増えている今、この要素の重要性はさらに高まっていると言えるでしょう。
四つ目は インダストリアルデザイン的な要素です。たとえば Apple Watch では、ジョグダイヤルを回してアラーム時刻を変更すると、目盛りを一つ越えるたびに細かな触覚フィードバックが返ってきます。こうした触れている感覚まで含めて設計することも craft の一部です。
そして五つ目が インタラクティビティ。ボタンにカーソルを重ねたときや、フォームに入力を始めたとき、その反応が生き生きとしているかどうかです。Ethan は、映画は craft の他の要素を備えていても、見る人の反応に応じて振る舞いを変えられないため、インタラクティブにはなり得ないと対比しています。
クラフトが良いプロダクトの例
現実世界の椅子を例にすると、切り株にも「座る」という機能はあります。プラスチック製の椅子は、切り株よりもずっと快適に座ることができます。しかし、イームズのロッキングチェアは、上質なレザーや美しい木材、卓越した設計によって、人々が「欲しい」「ずっと使いたい」と思う存在になります。
この違いこそが craft なのだと説明しています。
Keep reading with a 7-day free trial
Subscribe to デザイナーの英語帳 to keep reading this post and get 7 days of free access to the full post archives.





